成功本まとめシリーズ。
著者
マルコム・グラッドウェル
1963年イギリス生まれ。カナダ・トロント大学トリニティカレッジ卒。『ワシントン・ポスト』紙のビジネス、サイエンス担当記者を経て、現在は雑誌 『ニューヨーカー』のスタッフライターとして活躍中。邦題『急に売れ始めるにはワケがある』など、これまでの著書はいずれも世界で200万部超の大ベストセラーになっている。
要約
天才という言葉を聞くと、「生まれつきの才能」というイメージを持つ人が多いのではないだろうか。しかし、本書は、成功が単なる個人の才能だけではなく、努力はもちろんのこと、環境・文化、タイミングなどの複合的な要因によって大きく左右されることを示している。成功者がどのようにして成功に至ったのかを探る興味深い一冊となっている。
ポイント
1.「マタイ効果」──成功者はさらに成功しやすい
本書で重要な概念の一つが「マタイ効果(Matthew Effect)」である。これは、新約聖書のマタイによる福音書にある「持っている者はさらに与えられ、持たざる者は持っているものまで取り上げられる」という一節から名付けられた現象のこと。要するに、「すでに恵まれた環境にいる人は、さらなる成功のチャンスを得やすい」ということを示唆している。
例えば、カナダのジュニア・アイスホッケーリーグでは、1月〜3月生まれの選手が圧倒的に多いことが統計的に証明されている。これは、リーグの年齢区切りが1月1日であり、同じカテゴリーでも早生まれの子どもは他の子より身体的に成長が進んでいるため、有利なスタートを切れるからである。結果として、彼らは優秀な指導を受ける機会が増え、さらに成長していく。逆に、遅生まれの子どもは同じ才能を持っていても、最初の段階でチャンスを与えられず、埋もれてしまう可能性が高いということだ。
これはスポーツだけでなく、学業や仕事の世界にも当てはまる。早い段階で「才能がある」と評価された人は、より多くの機会とサポートを受けることができ、それがさらなる成功へとつながる。
2.1万時間の法則
著者は、「1万時間の法則」を提唱する。これは、何かの分野で真のエキスパートになるためには、およそ1万時間の練習が必要だという考え方で、日本の自己啓発書・ビジネス書でもよく取り上げられている有名な概念である。
例えば、ビートルズはデビュー前にドイツ・ハンブルクのクラブで何百回もの演奏経験を積み、この経験が彼らの音楽スキルを飛躍的に向上させ、後の成功に繋がった。単なる才能ではなく、膨大な時間をかけた練習が成功のカギとなる。
3.文化と成功の関係
著者は、「文化的背景」も成功を左右する重要な要素であると述べる。
たとえば、アジアの学生が数学に強いのは、彼らが育った文化に理由があると説明する。東アジアの農耕文化では、長時間の労働が重視され、それが学習態度にも影響を与えているという。
また、航空機の事故率が文化によって異なることも本書で触れられている。例えば、大韓航空(韓国)が例に挙げられているが、上下関係を重んじる文化では、副操縦士が機長に対して意見を言いづらく、その結果、事故のリスクが高まることがあるという。
これは、「天才」という本書のタイトルとはやや逸脱した内容ではあるが、「文化的要因が成功(または失敗)を左右する」一例といえるだろう。
4.まとめ
私たちは、成功者を見たとき「才能があるから」「努力したから」と短絡的に考えがちである。しかし、本書はその固定観念を覆し、成功の裏にある環境や偶然の要素を明らかにしている。
また、本書を読むと、成功には「運」が大きく関わることがよくわかる。それは単なる偶然の運ではなく、「適切な時期に適切な場所にいること」が非常に重要ということだ。たとえば、ビル・ゲイツが1970年代に生まれていなければ、彼の成功はなかったかもしれない。日本でいえば、就職氷河期と学生時代が重なってしまった人は、それ以外の人と比べて機会に恵まれず、成功しにくかったかもしれない。
ただ、この視点は「努力は無意味」ということを意味しているのではなく、むしろ、「チャンスがあるなら、それを最大限に活かすための努力が必要」ということを示していると考えるべきだ。環境が整っていても、それを活かせなければ成功にはつながらないからだ。
本書は、成功を目指す人、教育に関心がある人、そして「なぜ一部の人が成功するのか?」という疑問を持つすべての人にオススメしたい一冊である。
この本を読むと、「生まれながらの天才などいない」ということが理解できるが、逆にそうであるからこそ、"天才になる法則"を自身に応用することで、自分も天才になれるのではないかという期待と未来が見えてくる前向きな本である。
ビジネス書は、全文を一度読むより、たった一つのポイントでも毎日読み返して自分の血肉にすることが大事。響いた点があればあなたの読書メモにも蓄積を。
おしまい
