成功本まとめシリーズ。
著者
ブライアン・ハリガン
ハブスポット社(HubSpot)の共同創業者でCEO。同社は、企業がインターネット上で製品を「見つけてもらう」方法でマーケティングのやり方を変革するのを援助する、マーケティング・ソフトウェア会社である。マサチューセッツ工科大学のアントレプレナー・イン・レジデンスとして学生に起業について教える。余暇には、いくつかの会社の理事を務め、敬愛するレッドソックスを追いかけ、スポーツジムにでかけ、ギターを習っている。グレイトフル・デッドのライブ演奏を100回以上観ている。
デイヴィッド・ミーアマン・スコット
南極を含む世界7大陸で講演したプロの講演者であり、ウォール・ストリート・ジャーナル紙ベストセラー/ビジネスウィーク誌ベストセラー作家であり、常に世界中を旅しているマーケティング・ストラテジスト。午前6時に海に行くほど大好きなサーフィンは「下手の達人」。ついに自宅にミニ博物館を作ってしまったほどのアポロ月面着陸計画関連品の収集家。これまで行ったロックコンサートは800以上でグレイトフル・デッドのコンサートは75回。そのすべてをエクセルで記録しているという正真正銘のオタク。
要約
本書のテーマは、「グレイトフル・デッドのマーケティング戦略から学べるビジネスの成功法則」だ。一般的なバンドや企業が取り組むマーケティングとは一線を画す、彼ら独自の手法が紹介されている。
グレイトフル・デッドは、他のミュージシャンがCD販売やコンサートのチケット収入に依存する中で、異例の戦略を展開した。彼らはファンがコンサートを録音することを許可し、むしろそれを推奨した。結果として、口コミの力でバンドの人気が拡大し、ライブの動員数が増えた。また、音楽の商業的な成功よりもファンとの直接的な関係を重視し、ファンクラブ(「デッドヘッズ」)との強い結びつきを築いた。
著者らは、これらの事例を現代ビジネスのマーケティングに応用する方法を提示する。具体的には、「コンテンツを無料で提供することでファンを増やす」「従来のルールを疑い、独自の戦略を構築する」「ファンとの関係を最優先にする」といった考え方が示されている。
ポイント
1960年代から活躍したロックバンド、グレイトフル・デッドは、現代のソーシャルメディア時代に通じる革新的なマーケティングを先駆けて実践していた。彼らはライバルと一線を画す独自の手法を取り入れ、ファンを巻き込むビジネスモデルを確立した。
特に、ライブ音源を自由に録音・交換できる仕組みを許可し、それによって強固な口コミネットワークを構築した。これは「フリーミアム」の先駆けであり、無料で価値を提供することで熱心なファンを生み出し、結果的にライブのチケット販売を大成功させた。このアプローチにより、彼らはレコードの大ヒットに頼ることなく、業界で最も収益を上げるバンドの一つになった。
本書で挙げられているグレイトフル・デッドのマーケティング戦略の4つのポイントは以下。
1.従来の業界の思い込みを見直す
一般的なミュージシャンはアルバム販売を主な収益源とし、その販促のためにツアーを行う。しかし、グレイトフル・デッドは逆転の発想で、ライブそのものをビジネスモデルの中心に据えた。これにより、アルバムの売上に依存せず、安定した収益を得ることに成功。これは、単に製品を変えるのではなく、ビジネスモデルを変えることで新しいチャンスを生み出す好例である。
2.消費者をエヴァンジェリスト(熱狂的な支持者)にする
当時のバンドはライブ録音を禁じていたが、グレイトフル・デッドは録音を許可し、さらに高音質で録音できる「テーパー・セクション」を設けた。ファン同士が音源を交換し合うことで、自然とバンドの認知が広がり、新たなファン層を開拓。現代の企業が無料コンテンツを提供してユーザーを獲得する手法と同じく、無料にすることで最終的に大きな収益を生み出す戦略である。
3.消費者に直接販売する
1970年代初頭にバンド独自の会報を発行し、ファンにツアー情報を直接届ける仕組みを作った。また、一般のチケット販売業者を介さず、自前のチケット販売システムを構築し、熱心なファンに最良の席を提供。ファンを大切にし、直接つながることで強いコミュニティを作り、ブランドとしての価値を高めた。
4.たくさんの熱心なファンを作る
バンドがコンサートの「イメージ」を決めるのではなく、ファンのコミュニティが体験の主体となる形を採用。ライブそのものが「ハプニング」であり、「目的地」となるように設計し、ファン同士のつながりを重視した。これは、企業やブランドが顧客を単なる消費者ではなく、共に価値を創造するパートナーとして扱うべきであることを示唆している。現代のSNSやブログでの双方向的なコミュニケーションと同じ考え方である。
まとめ
『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』は、単なるロックバンドの成功物語ではなく、マーケティングの本質を考えさせる一冊である。
グレイトフル・デッドの戦略は、現代のコンテンツマーケティング、コミュニティ形成、ブランド戦略にも応用できる。
この本の最大のメッセージは、「既存の常識にとらわれるな」ということだ。成功している企業やブランドは、単に市場のルールに従うのではなく、自らルールを作り出している。本書は、マーケティングに携わるすべての人にとって、新たな視点を提供してくれる。
ビジネス書は、全文を一度読むより、たった一つのポイントでも毎日読み返して自分の血肉にすることが大事。響いた点があればあなたの読書メモにも蓄積を。
おしまい
