
かつて、私も例に漏れず、コンサルティングファームという場所に憧れを抱いた時期があった。
スマートに問題を切り分け、精緻なスライドで提案をまとめ、経営者の右腕として信頼を得る。
そんな理想像を思い描き、日経新聞を読み、書店のビジネス書コーナーでロジカルシンキングの本を漁っていたこともある。
しかし、時代は変わった。
生成AIの台頭により、「思考の型」や「情報収集・整理・仮説構築」といった、従来は人間の努力と訓練に委ねられていた領域が、ある種のオートメーションの対象となりつつある。
そこでふと思ったのである——「果たして今、コンサルファームに身を置かずとも、同等のスキルを独学で獲得することはできるのではないか?」と。
本記事では、私がその問いに対して考えた方法論を、自身の学習遍歴と重ねながら、まとめておきたい。
1. フレームワーク思考を骨の髄まで叩き込む
コンサルタントの根幹を成すものは、業界知識でもデータ分析スキルでもない。最も重要なのは、物事を「構造化」して捉える力である。そしてそれを支えるのが、いわゆるビジネスフレームワークである。
たとえば「MECE(漏れなく、ダブりなく)」、「ロジックツリー」、「ピラミッドストラクチャー」などは、その代表格である。何かを語るとき、何かを分析するとき、まずこのフレームを通して思考を整理すること。これができれば、大抵の課題は解像度高く分解できる。
有名どころとして、バーバラ・ミント氏の名著『考える技術・書く技術』、『ロジカル・シンキング』(照屋華子)や『イシューからはじめよ』(安宅和人)は必読と言えよう。
また、現在進行形で、フレームワークを数学の公式のように暗記しようと試みている。アマゾンと書店で見かけたフレームワーク本を片っ端から買い漁り、『ビジネスフレームワーク図鑑』や『ビジネス・フレームワーク』などを何度も読み返し、頭に叩き込もうとしている。
2. 実践で「課題解決力」を磨く
思考の型を知っただけでは不十分だ。それを現場で活かす訓練が必要である。いわば「腕を使って覚える」フェーズだ。
私にとっての実践の場は、社内業務における会議や資料作成の場である。特定のクライアントと対峙するような局面というより、むしろ「社内調整」において、課題解決の機会が頻繁に現れる。利害の異なる部署間の利点・懸念を整理し、関係者の納得を得る形で資料をまとめ、議論をファシリテートする。これこそまさに「ミニコンサル」のような営みになっている。
売上が上がらない理由、KPIの未達原因、部門間の齟齬——あらゆる問題に対して仮説を立て、構造的に解決策を提示する。この反復のなかで、自然と「考える力」と「伝える力」は磨かれていく。
3. スライドで「伝える技術」を磨く
コンサルタントのアウトプットの多くは、パワーポイントである。つまり、「伝わるスライドをつくる力」は、必須スキルである。
私もかつては「文字多め・図少なめ・説明長め」の資料を量産していたが、コンサル式のスライドに触れるうちに、考えが変わった。1スライド1メッセージ。言葉よりも構造。結論から語る。
今や生成AIを使えばこうした資料のたたき台も簡単に作成が可能だ。適切なプロンプトを書くスキルと調整力があれば素晴らしい資料がすぐに作れる時代になっている。
4. 業界分析力を鍛える
提案の質は、業界理解の深さに比例する。特にクライアントの属する市場構造や競合環境を見極める力は、コンサルタント的視点には欠かせない。
私の場合、日経新聞の読み方を変えた。ただ「読む」から「解釈する」へ。記事の背後にある利益構造や、企業の狙いを推測するクセをつけた。また、上場企業のIR資料を定期的に読むことで、財務指標やKPIへの感度も上がった。
業界ごとの収益モデルやバリューチェーンを理解し始めると、単なるニュースも立体的に見えてくる。
5. 情報発信によるアウトプット習慣
思考を言語化し、他者に伝える訓練として、ブログやXでの発信は極めて有効だ。私自身、このブログを通して何度も考えを整理し、他者の反応から新たな視点を得てきた。
特に「誰に伝えるのか」を意識すると、思考は一段と研ぎ澄まされる。「自分のため」に書くのと、「読者の課題を解決するため」に書くのとでは、構成も語彙も変わってくる。
アウトプットは最強のインプットである——これは決して精神論ではない。
6. ケーススタディで仮説思考を鍛える
コンサルファームの面接では「ケース問題」が出ることで知られているが、これは単なる就活の道具ではなく、非常に優れた思考トレーニングツールでもあると考えている。
「ある地方都市のコンビニチェーンが売上不振。原因と対策を3分で述べよ」といった問いに対して、いかにMECEで、仮説を持って、構造的に答えられるか。これこそがコンサル的思考の真髄である。
私は、今後この「毎日1問ケース問題を解く」という習慣を取り入れようと考えている。日々の仕事の中で流れていきがちな思考を、意識的に「型」に戻すリセットボタンのような役割として、取り入れたいと思っている。
7. ロールモデルと対話を重ねる
独学で陥りがちな罠は、視野の偏りである。だからこそ、優れたロールモデルや、他者との対話が欠かせない。
残念ながら、私の周りのリアルな人間にロールモデルとなる人がいない。元コンサルの動画を見たり、書籍を読むことで、常に思考をアジャストしていくことを意識している。
また、近頃は生成AIの活用もここでは非常に有効である。壁打ち相手として、仮説の精度や論点の整理をAIとともに進めることができる。もはや一人で悶々と悩む時代ではない。
おわりに
コンサルファームという環境は、確かに人を短期間で鍛え上げる。だが、同じレベルのスキルを身につける道は、決して一つではない。独学・実践・発信・対話——これらを積み重ねれば、たとえ看板がなくとも、コンサルタントのように「考え、伝え、価値を出す」人間にはなれるはずである。
生成AIが思考の相棒となった今、この道はますます現実味を帯びている。あとはやるか、やらないか。それだけの話だと考えている。
おしまい
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