
ビジネス書や研修資料に頻出する「フレームワーク」。それらを見て「難しそう」「自分には使いこなせない」と感じたことはないだろうか。だが実際は、フレームワークとはもっと身近で、もっと簡単なものである。
特に「5W2H」と「MECE」という2つは、すべての思考と伝達の土台になる“基本の型”であり、これが使いこなせるだけで仕事の精度は確実に変わるということを最近強く感じている。
本稿では、難解な戦略論に飛びつく前に身につけるべき、5つの基本フレームワークとその実践方法を論じる。
フレームワークに幻想を抱くな
世の中には「フレームワーク」という言葉に過剰な幻想を抱く人間が多い。ピラミッドストラクチャー、ロジックツリー、SWOT、3C、バリューチェーン……それらを使いこなすことが“論理的なビジネスパーソン”への近道だと思い込んでいる。
だが私は断言する。多くの人がまず身につけるべきは、5W2HとMECEという、シンプル極まりない「基本の型」である。
これらは地味で目立たない。だが、すべての応用技の土台を成す“構造の骨”である。
「考える力」は、5W2Hから始まる
5W2Hとは、言わずと知れた「Who / What / When / Where / Why / How / How much」の略である。ビジネスにおいて、何かを伝える際にこの7つの視点を押さえていれば、情報の抜け漏れはほぼなくなる。
たとえば上司への報告。多くの人間は「○○が終わりました」とだけ伝えるが、それでは不十分だ。「誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どうやって、いくらで」やったのか。それを一行一行に落とし込むだけで、報告の質は劇的に上がる。
しかもこの5W2H、報告書や提案書だけでなく、議事録、クレーム対応、業務指示、タスク整理に至るまで、あらゆる場面で使える。それゆえ、私は「仕事ができる人間は例外なく5W2Hが体に染みついている」とすら思っている。
MECEは、すべての論理の出発点
MECEとは、「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」――「漏れなく、重複なく」情報を分類・整理せよという原則である。
たとえば「売上が伸びない原因」を考える時、なんとなく「広告が弱い」「商品力が足りない」などと羅列するのではなく、「内部要因」と「外部要因」に分けてMECEに並べるだけで、思考が一段階深まる。
これはロジックツリーやピラミッドストラクチャーといった上位フレームワークの前提にもなる。つまり、MECEを知らずして高度なフレームワークを扱おうとするのは、漢字を知らずに小説を書こうとするようなものなのだ。
ロジックツリーとピラミッドは“型”の発展形である
ロジックツリーは、Why型(原因分解)とHow型(手段分解)に分かれる。問題の原因を掘るときにはWhy型を、目的達成の手段を考える時にはHow型を使えばよい。そしてそれは、MECEを前提として構築される。
一方、ピラミッドストラクチャーは「結論→理由→具体例」というプレゼンや文書の王道構成である。これは5W2Hで明らかにした「What(何を言いたいか)」に対して、「Why(なぜそうなのか)」をMECEに積み上げていく構造である。
どちらも“基本の型”が血肉になっていればこそ、自然に組み上がる構造だ。土台があればこそ、応用は美しく積み上がる。
フレームワーク思考とは「型で捉える力」である
最後に述べておきたいのが、「フレームワーク思考」という姿勢だ。これは、「あらゆる状況を、どんな“型”で捉えるか」を常に意識する習慣である。
たとえば「新商品の売れ行きが悪い」と聞けば、私は即座に3C(市場・競合・自社)で整理する癖がついている。また、価格・流通・販促などが問題なら4P(マーケティングミックス)を思い出す。
このように、“何か問題が起きたら、まずどの型で考えるべきか”という引き出しを持つことこそが、フレームワークの本質的な使い方である。覚えることが目的ではない。使えること、いや「無意識に出てくること」が最終目標である。
【実践編】フレームワークを日常で使いこなす練習法
フレームワークは頭で覚えるだけでは不十分だ。日常で繰り返し使うことで、思考と行動に染み込ませる必要がある。
以下に、5つの基本フレームワークを実生活で鍛える方法をまとめる。
【1. 5W2H:考えを言語化する“習慣”をつける】
練習法:
日記やメモに「今日の出来事」を5W2Hで記録
タスクを書き出すとき、必ず7項目で整理
会話や報告メールで「抜けがないか」を5W2Hでチェック
例:
今日何があった? → Who:自分、What:会議参加、When:10時、Where:第1会議室、Why:進捗確認、How:発表形式、How much:所要1時間
【2. MECE:思考を「分類」するクセをつける】
練習法:
「原因・要因・選択肢」などを箇条書きする時にMECEで分ける
SNSやニュースを見て、論点を“重なりなく”グルーピング
「冷蔵庫の中のものをMECEで整理」など身近なテーマで遊ぶ
例:
「疲れの原因」をMECEで
→ 身体的(寝不足・運動不足)/精神的(人間関係・仕事のプレッシャー)
【3. ロジックツリー:原因・手段を“木のように”描く】
練習法:
疑問が浮かんだら「Why?」を3回掘り下げる(Whyツリー)
目標ができたら「How?」を3本以上出す(Howツリー)
紙に実際に「ツリー図」を描いて視覚化するクセを持つ
例:
「もっと早起きしたい」→ How1:早寝する、How2:目覚まし2個使う、How3:朝に楽しみを作る
【4. ピラミッドストラクチャー:「理由は3つです」を口癖に】
練習法:
誰かに何かを勧める時、「結論→理由→例」の構造で話す練習
自分の考えを1分スピーチでまとめてみる
読書メモを「主張→根拠→引用」で構成してみる
例:
「なぜ紙の本が好きか?」→ 結論:再読性と感情の余韻があるから。理由1:マーカーが引きやすい、2:手触りで記憶が定着、3:目が疲れにくい。
【5. フレームワーク思考:世の中を「型で見る」訓練】
練習法:
ニュース・商品・会話を見たとき「どのフレームワークが使えるか」を考える
毎日1つ、テーマを決めて3CやSWOTでメモ
過去の意思決定を「どの型で考えればもっと良かったか」振り返る
例:
最近話題の商品X →
3Cで考える:Customer=若者ニーズ、Competitor=既存メーカー、自社=SNS拡散力強い
→ だからXはバズった、と理解できる。
結論:最強の武器は“当たり前の型”を使いこなす力
私は声を大にして言いたい。「難しいフレームワーク」を覚える前に、まずは5W2HとMECEが“自然に口から出るレベル”になるべきだと。
この2つさえ定着すれば、ロジックツリーもピラミッドも、応用型のフレームワークもすべて滑らかにつながる。逆に言えば、この2つをおろそかにしたまま、複雑な構造だけ真似しても中身は伴わない。
仕事とは、思考の再現芸術である。そしてその芸術には、必ず型がある。その型の入り口が、5W2HとMECEなのだ。
おしまい