
10年後、20年後の成長
社会人になってからよく耳にする言葉のひとつに、「10年後、20年後の成長」というものがある。だが、私はこの言葉に強い違和感を覚える。
なぜなら、思い返すと、中学・高校のたった3年間で、自分含め人間は圧倒的なスピードで成長してきたからである。あの短期間に学力も精神も飛躍的に伸びるのを経験してきた人間にとって、「10年で成長」といった悠長なスパンはどうにも間延びして感じられる。
中高3年の濃密さ
中学・高校それぞれの3年間は驚くほど濃密であった。偏差値は数十ポイント単位で変動し、部活動や人間関係を通じて社会性も鍛えられる。1年から3年にかけての変化は、見違えるほどのものだ。なぜその短期間で大きな成長が可能だったのか。
理由は明確である。
第一に、受験や進級といった「期限」が設定されていたこと。
第二に、テストや模試などの「客観的な評価指標」が存在したこと。
第三に、周囲と切磋琢磨する「競争環境」があったこと。
この三つが揃ったからこそ、わずか3年間で爆発的な成長を遂げることができたのである。
仕事が「10年単位」になる理由
一方で、社会人になると「10年で成長」というスパンが当然のように語られる。その背景にはいくつかの理由がある。
第一に、仕事は専門知識だけでなく人脈、交渉力、マネジメントといった幅広い力を要求するため、成長が複線的であり、時間がかかるように見える。
第二に、成果の評価が曖昧であり、テストの点数のように短期で可視化されにくい。
第三に、キャリアには明確な「卒業」や「受験」が存在せず、ゴールがぼやけている。そのために緊張感が失われ、「10年単位でいい」と自分を納得させてしまうのである。
しかし、これは大きな錯覚である。社会人にとっても3年という時間は十分に勝負できる単位であり、その密度次第で10年分の差をつけることは可能である。
社会人における「3年勝負」の意味
もし社会人が中高3年のような緊張感を持ち続ければどうなるか。答えは明白である。
周囲を容易に置き去りにできる。大多数の人間が「10年スパン」を前提に緩慢に歩む中で、自分だけが3年単位で加速すれば、その差は指数関数的に広がっていく。
では、具体的に3年間で何を積み上げるべきか。私は二つの軸があると考える。
ひとつは、専門スキル・知識の習得を加速させること。もうひとつは、会社に目に見える成果物を残すことである。
専門スキル・知識の習得加速
知識の習得においては、「広く浅く」よりも「狭く深く」を徹底すべきである。制度や市場の表層的な理解ではなく、なぜその仕組みが存在するのか、どのような背景や国際比較があるのかといった根本に迫る姿勢が重要だ。
さらに、学んだことを即座に実務に還元すること。インプットをインプットで終わらせず、「この知識はどう社内に活かせるか」を考えながら吸収する。これを続ければ、学習は自己満足にとどまらず、実務を動かす力となる。3年間集中すれば、専門領域において社内随一の存在になることは十分に可能であると考える。
成果物としての新サービスと売上
次に、会社に残す成果物についてである。もっとも評価に直結するのは、新商品・サービスを立ち上げ、それを売上に結びつけることである。
私は「既存サービスに付加価値を足して拡張するタイプ」が現実的であり、かつ勝ち筋があると考える。ゼロから新しい市場を切り開くよりも、既存顧客基盤を活かしたアップセルやクロスセルのほうが成功確率は高いからである。
具体的には、顧客が「本当は欲しいが諦めている機能」に焦点を当てる。現場の声を拾い上げ、既存のサービスに新しい要素を組み込む。その上で、まずは小規模なPoCを実施し、成果を数字で示す。成功事例を作れば横展開は容易であり、短期間で売上拡大に繋げることができる。
まとめ
私自身、転職3年目に突入した今こそ、「中高3年目の緊張感」を再現すべき時期である。中高にたとえれば、今は3年生の始まりであり、ここから受験に向けて加速していく段階だ。仕事も同じく、10年単位での成長を待つ必要はない。3年ごとに勝負を仕掛け、成果を残していけば、キャリアは一気に跳ね上がるのだと思っている。
おしまい