
クライアントとの予想外トラブル
仕事をしていると、思いもよらない方向から矢が飛んでくることがある。
先日、長いこと契約関係のあるクライアントから、契約書の解釈をめぐり、珍しく言いがかりに近い指摘を受けた。
普段は少し考えれば冷静に処理できる契約関連の対応だが、今回ばかりは厄介であった。条文そのものは曖昧ではないものの、背景事情や社内での合意の経緯を踏まえないと説明がつかない類の問題だったからだ。
突破口は怖い役員
困ったのは、社内の人員が入れ替わりの激しい部署であるため、当時の経緯を知っている人間がほとんど残っていないことだった。
調べてみると、唯一詳細を知っているのは、今や役員となっている大先輩である。社内で「めちゃくちゃ厳しい」「怖い」と有名な人物であり、しかも多忙を極める立場だ。正直、相手にされない可能性の方が高い。そう覚悟したうえで、思い切ってチャットを送ってみた。
人を頼る勇気
最初の反応は予想通り冷たいものだった。「うーん覚えてない。何の件だっけ。てか君だれ?」という反応に、心が折れそうになった。
しかし、それでも食い下がった。このままでは困るのは自分である。そして、今まさに困っていて、あなたに頼るしかない、という必死さを正直に伝え続けた。すると、態度が少しずつ変わり、「わかった。とりあえず会って話しましょか」と言ってくれた。
対面MTGで得たもの
実際に30分ほど対面で打ち合わせをした。先輩は当時の経緯を一生懸命思い出しながら説明してくれ、今後どう対応すべきかについてもアドバイスをくれた。
それだけでなく、法務部の部長にまで案件の説明をしてくれ、私が一人で抱え込んでいた問題は一気に組織の課題として共有された。自分の力だけでは到底開けなかった道が、人に頼ったことで拓けていく瞬間を実感した。
自力と他力のバランス
私は基本的に、仕事は自分の能力と責任で完結させるべきだと考えている。人に頼ることは甘えであり、成長を阻害するので、まずは自力で突破口を探るのが筋だと思っている。
だが今回のように、どうしても自分だけでは解決できない局面は存在する。そのときに必要なのは、潔く人に頼る勇気だ。そして、頼る側に熱意と真剣さがあれば、人は案外手を差し伸べてくれるものだと学んだ。
信頼残高を積み立てる
今回のケースでは、初対面に近い状況でも助けてもらえた。しかしこれは、正直運の要素が強かったとも言える。
本来ならば、日頃から社内人脈を広げるとともに、彼らに対して「信頼残高」を積み立てておくことが重要だ。信頼残高とは、見えない口座に少しずつ貯めていく信用の蓄積のようなものだ。日常の業務で誠実に対応し、約束を守り、困っている同僚を助ける。そうした小さな行為が積み重なって、いざ自分が困った時に引き出せる「残高」となる。
人は、合理的な理由だけで他人を助けるわけではない。「あの人が言うなら仕方ない」「あの人には借りがある」といった感情や記憶が、行動の背中を押すことも多い。逆に言えば、普段の仕事ぶりや態度が信頼を損なうものであれば、いざという時に誰も手を差し伸べてはくれないだろう。
頼ることは恥ではない。ただし、無尽蔵に協力を引き出せるものでもない。
信頼残高を意識的に貯め続けることが、組織の中で生き延び、成果を上げるうえで不可欠なのだ。
今回の経験を通じて、私は「自力でやる」と「人に頼る」のバランスを見直した。
熱意は伝わる。そして、その熱意を受け止めてもらえるかどうかは、日頃の信頼残高の積み立てにかかっている。
困ったときには、一歩踏み込んで誰かを頼ってみる。その背後には、これまでの自分の積み重ねが必ず映し出されているのだろう。
おしまい