
心理学には「セルフ・ハンディキャッピング」という概念がある。
これは、失敗したときに自分の能力不足を直視せずに済むよう、あえて自分に不利な状況を作り出す行動や思考を指す。
たとえば、試験前に勉強を避ける、会議前に準備を怠る、あるいは「自分は本気を出していない」と周囲にアピールする。こうした小細工は、プライドを守る代わりに、成長のチャンスや実力を正当に発揮する機会を奪う。
サラリーマンにとっては、最大の敵は往々にして外部環境や上司ではなく、自分自身であるとも言える。
職場での典型例
実際、職場では、このセルフ・ハンディキャッピングが多く見られる。
たとえば「忙しすぎて資料を十分に準備できなかった」と言い訳を残すケースだ。これは「成果が出なかったのは自分の能力不足ではない」という予防線である。また、本質的に重要な案件から逃げ、周辺業務ばかりを片付ける行動も同じだ。挑戦の場から距離を取ることで、もし評価されなくても「本気を出していなかったからだ」と自分を慰められる。
さらには「私は出世レースに興味がない」といった発言も、挑戦しない理由を正当化するセルフ・ハンディキャッピングの一種である。
これらの行動は、短期的には心理的安定を与える。
しかし長期的に見ると、昇進の芽を摘み、自分を組織内で「伸びない人材」として固定してしまう。上司は結果だけを見ているのではなく、挑戦する姿勢そのものを評価することが多い。
出世をめざす人間が取るべき対策
では、出世をめざす人間はどうすべきか。いくつか実践的な対策を挙げてみたい。
第一に、結果よりもプロセスを意識することだ。
「失敗=能力不足」という短絡的な発想をやめる。実際、挑戦し改善したプロセスを周囲に見せる方が評価される。上司は「完璧な成果」よりも「困難に向き合い、工夫を重ねる姿勢」を意外と高く評価する。
第二に、予防線を張らない習慣を持つことだ。
会議で「準備不足ですが」と口にしてから発表する人がいるが、これは自分の首を絞めるだけである。
先に逃げ道を作ることで安心感は得られるが、聞く側には「本気度が低い」と映る。むしろ事実を述べ、必要なら改善策を提示する方がプロフェッショナルである。
第三に、小さな成功を積み上げることだ。
大学受験と違い、昇進を決めるのは一発の大勝負ではない。日常の中で「期限を守る」「報告を怠らない」「定量的成果を示す」「よく考えてから話す」といった小さな勝利を積み重ねることが、自己効力感を育て、セルフ・ハンディキャッピングに頼らない自信を生む。
第四に、挑戦を公言することだ。
周囲に「この案件を必ずやり遂げる」と宣言すれば、自分の逃げ道を断てる。宣言にはリスクが伴うが、その分だけ本気で努力する動機になる。職場は意外なほど「宣言した者勝ち」であり、その覚悟が評価される。
まとめ
私はこれまで、まさにセルフ・ハンディキャッピングを繰り返してきた気がする。
女遊びに夢中だったこともあるが、同僚との勝負から距離を取り、挑戦しない理由を自ら作ってきた。
しかし、それもようやく落ち着き、今ははっきりとわかる。私の最大の敵は自分自身であり、勝負を避けることでプライドを守ってきただけなのだ。
だからこそ、向こう1年間、今日書いた内容を実践する。まずは挑戦を公言し、日常の小さな勝利を積み重ねる。そして逃げ道を断ち、大きな案件に本気で取り組む。失敗を恐れず、挑戦のプロセスを周囲に示し続ける。その姿勢そのものが、出世への最短ルートになるはずだ。
おしまい