健診や人間ドックのたびに、身長が縮んでいないかと妙に緊張する人間がいる。
そう、私である。
誰にも言わないだけで、密かに恐怖を抱いているサラリーマンは案外多いのではないか。年齢の問題ではなく、単純に「自分がしぼんでいく」という感覚がイヤなのだ。
実際、人間は日中に1〜2センチ身長が縮むという。理由は単純で、重力と長時間の座り姿勢で椎間板から水分が押し出されるからである。骨が短くなるわけではない。だが、数字として縮む。日中の縮みは「劣化」ではなく「水が抜けたスポンジ」だと言われれば少し安心もするが、それでも検診の直前の身としては油断できない。
ここで問題になるのが「戻りしろ」である。
椎間板は睡眠の間に水分を吸い戻し、朝の身長はほぼ最大値に近づく(だから、健康診断は朝に受けた方がいい)。
しかし、この戻りしろは無限ではなく、姿勢の悪さや筋力低下で少しずつ目減りしていく。猫背気味だと腰椎に偏った圧がかかって戻りが悪くなる。
座り仕事が長ければ長いほど、日中の縮みも大きくなる。忙しいサラリーマンほど、背骨の状態を舐めないほうがいい。
では、睡眠時間を確保すれば万事解決かといえば、それも違う。
最初の数時間で回復の大半は起きるが、短時間睡眠を続ければ、朝でも少し縮んだままになる。
とはいえ悲観する必要はない。3時間睡眠が続いたとしても、ある日まとめて長く寝れば椎間板の水分はほぼ元に戻る。
問題は戻りしろを減らさない習慣である。
そのために必要なのが、姿勢と筋肉だ。これは精神論でも意識高い系の話でもない。
単純に、背骨を支える筋肉が弱いと椎間板が体重を一手に引き受けることになり、日中の縮みが増える。逆に体幹やお尻、背中の深い筋肉が強ければ、椎間板への負荷が分散し、夜の回復がスムーズになる。
日中の縮みを抑える動作もいくつかある。両腕を上げての全身伸び(一番手軽)、キャット&カウ、ぶら下がり。このあたりは数秒から数十秒でできるが、効果は大きい。
計測直前に全身伸びをすると数ミリ戻ることは珍しくないらしい。
身長測定というマニアックなテーマを通じて思うのは、身体のメンテナンスは意外と数字に如実に表れるということだ。筋肉は裏切らないではなく、「椎間板は裏切らない」とでも言おうか。姿勢と筋肉、そして適切な睡眠さえ確保すれば、戻りしろは確実に守られる。年齢を理由にしぼんではいかない。
健診前にそわそわする私のような人に伝えたいが、身長は骨の長さではなく日常の積み重ねで変動する。
恐れる必要はない。戻りしろを確保しておけば、数字はきちんと応えてくれる。仕事も身体も、結局は同じなのである。
おしまい