前回のエントリで書いたとおり、僕の社会人生活は最悪のスタートだった。
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モテ人生の夜明けを迎えるのはまだしばらく先の話である。
僕の女性の口説き方やナンパに関する持論もいずれ必ず語るのでしばし待ってほしい。
まずは僕という人間について具体的なイメージをもってもらいたいのだ。
女性にまったくモテない、仕事のできない若者でも、いくらでも人生逆転できるという話をしたいのである。
希望を抱いて社会に飛び出した若者は、その数カ月後には完全に自信を喪失し、うつ状態になっていた。
医者に出された向精神薬はゴミ箱に放り投げ、なんとか薬に頼ることだけは回避した。
しかし、何か月経っても落ち込んだ気持ちが晴れることはなかった。
忙しい毎日の中でふと一息つくタイミングや、土日家でのんびりしているとき、決まって大量の涙が流れ落ちた。
状況が改善する兆しはまったく見えなかった。
家に籠っていると気がおかしくなりそうだったので、日曜はよく一人で散歩にでかけた。
街で楽しそうに過ごしている家族やカップルを見るとさらに陰鬱な気持ちになった。
自己紹介でも書いたように、僕は本を読むのが好きだった。
繁華街の喧騒は避け、国道沿いの地元の本屋で長い時間を過ごした。
その行き帰りの道で、季節の移り変わりを肌で感じるのが、ささやかな楽しみだった。
それまでの僕は、よく小説を読んだ。
スポーツ選手の自伝なども好きだった。
ファッション系の雑誌なども見ていた。
勉強法の本などのノウハウ本もよく読んでいた。
しかし、自己啓発本は唯一毛嫌いしていた。
「人生が変わる」などの謳い文句が並んでおり、とても怪しかったからだ。
本一冊で人生が変わるもんか、と。
しかし、その日たまたま手に取った本があった。
真夏のかんかんに晴れた、蒸し暑い日だった。
地元の小さな本屋で出会った一冊の本。
デール・カーネギーの書いた『道は開ける』という本だった。
この本を読んでみようと思ったのは、通常の自己啓発本にありがちな「読んだら、嘘のように悩みが晴れました!」などといった自己啓発本にありがちなうさんくさい帯も付いておらず、著者も1800年代生まれで、もう故人であり、時の洗練を充分に受けていると判断したからである。
本はパラパラめくってみて、つまらないと判断した時点でおしまいである。
この本は悩みの具体的な事例に富んでおり、とても読みやすそうだった。
悩みの種類をカテゴリー化し、カテゴリーごとに具体例をいくつか示し、解決のための公式(名言)を示すという流れで進んでいく。
僕は読みたい本は立ち読みせず、必ず新品で買ってゆっくり読む主義である。
この本も家で読むことにした。
潔癖症ではないが、どうしても他人の手垢と部屋の匂いがべったりと付着した本は読む気にならない。
帰宅。
風呂にゆっくり浸かり、晩御飯を食べた。
僕にやることは何もなかった。
寝る前の読書の時間は心地良い。
本書をAmazonで調べてみると、
「あらゆる自己啓発本の原典」といったレビューもあった。
なんだか、この本を読んだら前に進める気がする。
そんな気持ちにさせてくれる本だった。
そもそもハードカバーで、表紙が著者(おじいさん)の白黒写真という
大変落ち着く体裁なのも気に入った。
今でもこの本は、本当に悩めるすべての人のバイブルになると僕は信じており、
とても一記事では書ききれない。
また機会があったら登場するかもしれない。
この本に「心の中から悩みを追い出すには」という項があった。
そこにはこう述べられていた。
忙しい状態でいること。悩みをかかえた人間は、絶望感に負けないために、身を粉にして活動しなければならない。
と示されていた。
これはこの本で掲げられている悩みを追い出す原則の中でも、第一の鉄則として挙げられている。
この言葉は今でも僕の座右の銘である。ちょっとネガティブな座右の銘であるが。
つまるところ、人間は二つのことを同時に思考することはできないのである。
この日から、仕事中はとにかく仕事を今まで以上に引き受けて、追い込まれよう。
仕事が終わった後の時間も、何か常に予定を入れて忙しい状態に身を置こう。
と心に誓った。
多忙を求め、多忙を維持すること、これこそ、地球上に存在するもっとも安価な治療薬であり、しかも絶大な効果を有する
まさにこのとおりであった。
この日を境に、少しずつではあるが、僕は前に向かって歩き始めることができたのである。
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<回顧してみる>
入社当時、月曜~金曜は家と会社の往復だけで終わり、土曜は丸一日死んだように寝ていた。
日曜の朝になると体力は回復しているのだが、いかんせんやることがなかった。
うつ状態なので、会社の同期や学生時代の友人とは会いたくないし、無論彼女もいない。
やることと言えば、本を読むことくらいだった。
それまで自己啓発本は大嫌いだったが、すっと引き寄せられるようにこの本を手にしたのを覚えている。
この本は僕の人生を変えてくれた本(生き方的な意味で)1位である。
この日を境に、僕は暇を持て余すことはなくなった。
眠るときは、疲れ果てて電池が切れた時である。悩むというのは、暇な証拠なのだ。
さあ、悩める若者よ、忙しくしよう!疲れ果てたら寝よう!