D・カーネギーの『人を動かす』を先日読み終わったので、そのまま続けて同書と双璧をなす彼の名著『道は開ける』を読んでいる。『道は開ける』では、まずPART1で「悩みに関する基本事項」を学ぶ。その後、PART2以降で悩みの分析方法や悩みの解決方法、悩みの予防方法など、悩みに関するあらゆる事柄が記載されている。
PART1の冒頭で「今日、一日の区切りで生きよ」という極めて重要な思考方法が紹介されている。
我々が何かに悩む時、その悩みの根源にあるのは未来と過去である。「もし、こんなことが起きたらどうしよう」「あの時、こうしておいたらよかった」など未来や過去の出来事に思い悩み、現在を傷つけている。だが、当然我々が生きることができるのは、目の前の「今」だけである。膨大な過去に生きることもできないし、まだ見ぬ未来に生きることもできないのである。だから、我々は自分が生きられる時間、すなわち、今から就寝するまでの時間を生きるだけで満足しようと意識するのだ。
社会人なりたての頃、今でこそある程度ホワイトな労働環境に改善されたものの、僕の勤め先はとんでもないパワハラブラック企業だった(公にはなっていないが、実際に自殺者も複数名出ている)。
上司や先輩に詰められたことを思い出しては落ち込み、この先会社に勤め続けることを考えては憂鬱になる日々を過ごしていた。毎日どうやって自殺しようかということを考えていたその頃に、本書を読み「今日一日の区切りで生きる」という極めてシンプルな一節に出会ったのだ。
今となってはやや大袈裟であったが、毎朝目が覚めると、今日会社に行ったら、目の前の仕事だけをこなそう、明日以降のことは明日起きてからまた考えよう、と決意してから出社していた(言い換えれば、毎日退職する覚悟を持って仕事に行っていた)。
前日の失敗や明日の準備まで気にかける余裕はなかったが、その日一日だけならなんとか踏ん張ることができた。
D・カーネギーの本は具体例が多いのが特徴だが、特に本章では名言という形で多くの偉人の言葉が引用されているので、紹介する。
「我々にとって大切なことは、遠くにぼんやりと存在するものに目をやることではなく、手近にはっきりと存在することを実行することだ」
トマス・カーライル
「君たち一人一人は、この豪華客船よりもはるかに素晴らしい有機体であり、ずっと長い航海をするはずです。考えていただきたいのは、この航海を安全確実なものとするために、『一日の区切りで』生きることによって自分自身を調節することを学べということです。ブリッジに立って、とにかく大きな防水壁が作動している状態を見るといい。ボタンを押してみなさい。そうすれば、諸諸君の生活のあらゆる部分で鉄の扉が過去──息絶えた昨日──を閉め出していく音が聞こえるでしょう。またもう一つのボタンを押して鉄のカーテンを動かし、未来──まだ生まれていない明日──を閉め出すのです。そうしてこそ、諸君は今日一日安泰です。過去と縁を切ることです。息絶えた過去など、死者の手に委ねましょう……愚か者たちを不名誉な死へと導いた昨日など閉め出すべきです……明日の重荷に昨日の重荷を加えて、それを今日背負うとしたら、どんな強い人でもつまずいてしまうでしょう。過去と同様、未来もきっぱりと閉め出しなさい。未来とは今日のことです……明日など存在しないのです……人が救われるのは今日という日なのです。エネルギーの消耗、心痛、神経衰弱は、未来のことを気遣う人に歩調を合わせて、つきまといます……そこで、前と後ろの大防水壁をぴたりと閉ざし、『今日、一日の区切りで生きる』習慣を身につけるように心がけるべきでしょう」
サー・ウィリアム・オスラー
「それゆえ、明日のことを考えるな。明日のことは明日自身が考えるだろう。一日の苦労はその一日だけで十分だ」
「マタイによる福音書」第6章
「自分の荷物がどんなに重くても、日暮れまでなら、誰でも運ぶことができる。自分の仕事がどんなにつらくても、一日なら、誰でもできる。太陽が没するまでなら、誰でも快活に、辛抱強く、親切に、貞淑に生きられる。そして、これこそが人生の秘訣そのものだ」
ロバート・ルイス・スティーヴンソン
「賢者には毎日が新しい人生である」
作者不明
そして、本書に引用されている名言ではありませんが、あのホリエモンも同じことを言っています。
「未来を恐れず、過去に執着せず、今を生きろ」
2015年に近畿大学の卒業式で行った伝説のスピーチに出てきた一節です。
◉過去と未来を鉄の扉で閉ざせ。今日一日の区切りで生きよう。
おしまい